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工房の技術- 草木染め加賀友禅
工房では、加賀友禅という伝統工芸が変わりゆく時代の中でも、手描きの技術を大切にしながらあり続けるには、どのようなモノづくりをしていけばいいか日々考えています。その中で工房が独自で考えた技術を紹介させていただきます。
草木染め加賀友禅のいきさつ
かつて友禅染めが成立した江戸時代においては、動植物を素材とする天然染料が用いられていました。明治期に至ると、色数が豊富で発色の良い化学染料が普及し、現在の加賀友禅染めはそのような化学染料によって染められています。しかし、現代の技術を取り入れれば、自然の素材を用いながらも、発色が良く、堅牢度も高い植物染料が開発できるのではないかと考え、染色の原点である、自然の色による本来の友禅染めを再び還ってみようと思いました。
従来の草木染めとの違い
従来の草木染めの仕方は、焚き染め(染料を高温で焚いた鍋などに生地を浸けて染める)や浸け染め(染液の中に布を一定の時間浸ける)が一般的で、加賀友禅染めのような筆彩色、つまり友禅模様のような細やかな色分けや繊細な模様を表現することは難しいとされてきました。しかし、山梨大学の増田先生の支援を得て、上記の条件をクリアした短時間かつ常温でも染められる植物染料を共同開発し、加賀友禅の手描き彩色で自然の色を染めることができました。増田先生(当時北陸先端科学技術大学院大学)が「STI for SDGs」アワードにおいて『染色排水の無害化を切り拓く最先端の草木染め』の取り組みが文部科学大臣賞を受賞しました。
https://www.jst.go.jp/sis/co-creation/sdgs-award/2019/result_2019.html
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土地の色を伝えていく
これまで、模様自体に意味をもたせることは多くありましたが(例:吉祥文様など)、草木染め加賀友禅では「色」にも意味をもたせることができます。その土地ならではの草木や産地の作物などの色が友禅模様となって、見る人にその土地の歴史を感じさせます。
例えば、工房が最初に制作した植物染料の尾山神社の境内に咲いている兼六園菊桜は、江戸時代に京都御所の菊桜が加賀藩に下賜されたことに由来し、別名「御所桜」と言われています。京都御所のオリジナルの菊桜は枯れてしまいましたが、桜守りの方々が枯れる前に接ぎ木し、後世に残せるように別の場所で育て、平成15年に加賀藩藩主前田利家公を始め,歴代藩主公を奉斉する尾山神社に御奉納されました。300枚の花びらを持ち、開花から落花までの間に、花の色を三回変えることを特徴で、ゴールデンウィーク頃に見頃をむかえる遅咲きの桜です。
偶然、桜守りの方と知り合いだったので、その方と尾山神社の許可を得て、開花後に落ちた花を拾わせて頂けることになりました。
ゆくゆくは、いろいろな国の植物を使って多くの植物染料を作り出し、その土地の歴史を知り合うことで日本と外国との文化交流に工房のノウハウを役立てていきたいです。
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