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工房の技術- 異素材への加賀友禅染め
工房では、加賀友禅という伝統工芸が変わりゆく時代の中でも、手描きの技術を大切にしながらあり続けるには、どのようなモノづくりをしていけばいいか日々考えています。その中で工房が独自で考えた技術を紹介させていただきます。
染めようと思ったきっかけ
1番最初に染めた異素材は木(友禅夢樹)でした。
独立して工房を始めた当初はバブル景気だったこともあり、他県の着物の産地に波がある時も、私たち加賀友禅の作家はたくさんの作品を手掛けてきました。しかし、バブル崩壊以降は加賀友禅の産地も徐々に着物の仕事が減り、「着物ではなく新しいモノを作ってみたい」と考えていた中、近所の神社に散歩がてらお参りに行った帰り、大工さんが新築の家を建てるため、床柱を削っていました。檜の香りにつられ、大工さんとお話をして、鉋屑(かんなくず)をいただきました。お風呂に入れて、久々に癒されようと持ち帰り、ふと、色を染めたらどうなるだろうと思い、一筆染めてみると、着物とはまた違った木に馴染んだ美しい色に感動して、「これだ!」と思い、ここから異素材に加賀友禅を染める挑戦が始まりました。
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染め方について
加賀友禅は糊置がとても大切な工程です。生地に置いた糊のことを糸目と言われています。この糸目が模様の輪郭となり染料のにじみを止め、繊細な模様をその後の彩色で描くことができます。この技法を江戸時代に考えた宮崎友禅斎の名前からとって「友禅」といいます。
この技法を応用して木や金箔、化繊に手描加賀友禅染を施したものが「友禅夢樹・金箔加賀友禅・天女の羽衣加賀友禅」といい、工房久恒オリジナルの技法です。基本的には着物の工程と同じように「小下図―図案―下絵―糊置―彩色―糊を取る」というそのままでお作りしています。木や金箔に布と同じようにキレイに染められるように、化繊にはムラなく染められるようにするには何度も失敗を重ねました。そしてようやく満足のいく染料を作り出すことが出来たのです。
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これからのものづくり
このオリジナルの技法を使って、加賀友禅を着物や帯などの身に着けるモノだけではなく、内装やインテリアなど空間をデザインするモノとしてお使いいただけます。また、木や金箔に馴染んだ色が素材の経年変化とともに深みを増した作品に仕上がります。 異素材に染めることで、今までと異なった業界の方やお客様と話す機会が増え、それがまた工房のこれからのモノづくりの糧となっています。今ある技術だけではなく、もっと「加賀友禅を身近に」感じてもらえるように挑戦を続けていきます。